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「前かがみになれなくて、自分で靴下が履けない」「毎日履かせてあげるのが、腰にこたえる」——足元の困りごとの中でも、”靴下を履く・履かせる”は、とても身近で切実なテーマです。今日は、その困りごとを助ける道具「ソックスエイド」と、履かせやすい靴下について、一緒に整理していきます。
✍️ この記事を書いた人
福祉グッズ探偵 TOCHI
- 福祉用具専門相談員
- 福祉用具プランナー
- 住環境コーディネーター2級
- おむつフィッター2級
福祉用具の現場で17年、のべ1万件以上のご相談に向き合ってきました。
この記事のソックスエイドについては、私自身に販売・使用の経験がありません。だからこそ体験談は書かず、公表されている公的資料と事実、そして「向く人・向かない人の線引き」でお役に立てればと思っています。
🕵️ 忙しい方へ
ソックスエイドは、腰を曲げず座ったまま靴下を履くための自助具です。可動域に制限がある方・術後・片手が不自由な方・前屈できない方などに向きます。ただし両手で紐を引く道具なので、座った姿勢が安定しない・握力が弱い場合は無理せず、履き口の広い靴下や専門職への相談も選択肢に。介護保険の対象品目には含まれず、購入は実費です。大切なのは道具を先に決めないこと。「誰を助けたいか」が決まると、選ぶ道具も自然に見えてきます。
📑 目次(タップで開閉)
事件のはじまり:靴下が「履けない」「履かせられない」
靴下は、毎日のように履くものです。だからこそ、そこがうまくいかなくなると、暮らしの中の小さなストレスが毎朝積み重なっていきます。困りごとは、大きく二つの方向に分かれます。一つは「本人が、自分で履きたいのに履けない」。腰や股関節、膝が思うように曲がらず、前かがみになれない。もう一つは「介助する家族が、毎日履かせるのがつらい」。かがんだ姿勢で足先まで手を伸ばし続けるのは、腰にこたえます。
この記事は、前作の介護用靴下の選び方(総論ハブ)でお伝えした「商品より先に見る4つの順番」の、さらに先にある話です。裏(滑り止め)・履き口・歩き方・床を見ていっても、そもそも「履く・履かせる」動作そのものができない——そんなときに登場するのが、今回のテーマです。
先にこの記事でいちばん大切なことをお伝えします。道具は、先に決めない。「ソックスエイドが良いらしい」と道具から入るのではなく、「誰を、どんなふうに助けたいのか」が決まると、選ぶ道具も自然に見えてきます。本人の自立を助けたいのか、介助の負担を軽くしたいのか。そこがはっきりするほど、遠回りが減ります。
30秒ミニチェック:困っているのは、どっち?
まずは、今の困りごとがどちら寄りかを、ゆっくり思い浮かべてみてください。どちらが正しい・間違いではありません。当てはまる方から読み進めると、必要なところに早くたどり着けます。
🟩 30秒ミニチェック
☐ 本人が自分で履きたいが、前かがみになれない
☐ 介助者が履かせるのが、体力的に大変
☐ その両方で困っている
→ 上に近い方は「自分で履く」を助ける道具(ソックスエイド)から、下に近い方は「履かせやすい靴下」から、当てはまる方を中心に読んでみてください。
この記事は、どちらの困りごとにも触れていきます。ただ、入り口が違うと選ぶ道具も変わるので、最初に方向だけ意識しておくと読みやすくなります。「両方」という方は、後半の「目的で分かれる2つの道具」(第6章)が交通整理の役に立つはずです。
ソックスエイドとは?──座ったまま履く道具
ソックスエイドは、靴下をかぶせてから、紐(ひも)を引いて履く自助具です。あらかじめ道具の本体に靴下をセットしておき、足を差し込んで紐を手前に引くと、腰を曲げて足先まで手を伸ばさなくても、座ったまま靴下が履けるという仕組みです。公的な資料でも、太ももの間に本体をはさみ、靴下を通し、足を差し込み、紐を引っ張り、最後にゆっくり本体を引き抜く、という流れが図解で紹介されています(神奈川県総合リハビリテーション事業団・地域リハビリテーション支援センター「靴下をはくための自助具の紹介」)。

市販のソックスエイドには、いくつかのタイプがあります。硬めのプラスチック製は形がしっかりしていて靴下をセットしやすい一方、収納時にかさばることがあります。やわらかい素材のものは足あたりがやさしく、丸めて持ち運びやすいタイプもあります。布・メッシュ状のものは軽く、旅行などにも向きます。どれが良い・悪いではなく、手の力や使う場所によって、扱いやすさが変わると考えてください。ネット通販でも手に入りますが、価格や在庫は販売ページで最新情報をご確認ください。
【核心】向く人・向かない人の見極め
この記事でいちばんお伝えしたいのが、ここです。ソックスエイドは「便利な道具」ですが、誰にでも合うわけではありません。向く人と、向かない・注意が要る人を、正しく見分けることが、無駄な出費や「買ったのに使えなかった」を防ぎます。
向く人(公的資料が挙げている対象)
前掲の神奈川県総合リハビリテーション事業団の資料では、ソックスエイドが役立つ方として、次のような例が挙げられています。
・人工股関節(THA)・人工膝関節(TKA)の術後で、可動域制限や脱臼を避けたい肢位がある方
・リウマチ・関節炎・四肢の拘縮で可動域に制限がある方
・片麻痺や骨折の影響で、片手が不自由な方
・ぎっくり腰や腰痛で前屈できない方/妊娠中などで前かがみになれない方
出典:神奈川県総合リハビリテーション事業団・地域リハビリテーション支援センター「靴下をはくための自助具の紹介」
共通しているのは、「頭では履きたいのに、体の動きが届かない」という状態です。とくに人工関節の術後は、深く曲げる・ひねるといった動作を避けたい時期があり、ソックスエイドが自立を助ける場面があります。作業療法士の職能団体も、腰を前にかがめない方・痛みがある方・指先が動かしにくい方などの困りごとを助ける自助具として紹介しています(愛媛県作業療法士会「ソックスエイドについて」)。こうした場合は、主治医やリハビリの担当者から道具を紹介されることもあります。
向かない・注意が要る人(公的資料と、道具の仕組みから)
まず知っておきたいのは、市販のソックスエイドを買えば、誰でも同じように使えるわけではないということです。ある作業療法部門の報告では、市販のソックスエイドが実用性に乏しかったため独自に作製したうえで、「関節可動域に制限があるか」「足関節の動きが良好か」によって、本体の形状や持ち手の工夫が必要だとわかった、とされています(障害保健福祉研究情報システム(DINF)「ソックスエイドの適応」)。自助具の公的なデータベースでも、製品ごとに使用対象者が想定されており、中には対象者をかなり限定した自助具もあります(テクノエイド協会 自助具データベース)。つまり、同じソックスエイドでも体の状態によって”合う形”が違い、製品によって向き・不向きがあるのです。
あわせて、道具の仕組みからも、注意しておきたい点があります。ソックスエイドは、座って前かがみを避けながら、両手で紐を手前に引く道具です。そのため、次のような場合は、そのままでは使いにくかったり、工夫が必要になったりすることがあります。
・握力が弱い方……紐を引く力が要るため、しっかり引けないと靴下がうまく上がりません
・手順の理解や見守りが必要な方……セット→差し込む→引く、という工程を一人で続けるのが難しいことがあります
🟩 TOCHIの判断ポイント|買う前に、まず見ること
まず見る:座った姿勢が、両手を使っても安定して保てるか。
なぜ:ソックスエイドは、前かがみを避けつつ両手で紐を引く道具だからです。姿勢の安定が土台になります。
どうする:姿勢や力に不安があれば、購入前に作業療法士(OT)・理学療法士(PT)に、その方に合うか相談を。試してから選ぶと確実です。

【要注意】介護保険は使えません(実費)
ここは、知っておくと無駄な手間を省ける実益情報です。結論から言うと、ソックスエイドの購入に、介護保険は使えません。全額自己負担(実費)です。
介護保険で費用の補助が受けられる福祉用具には、「福祉用具貸与(レンタル)」と「特定福祉用具販売(購入費の支給)」という枠組みがあり、対象になる品目があらかじめ決められています。特定福祉用具販売の対象は、腰掛便座や入浴補助用具などの品目に限られており、靴下を履くための自助具(ソックスエイド)は、この対象品目に含まれていません(厚生労働省「介護サービス情報公表システム」特定福祉用具販売)。
「介護のための道具だから、保険で安く買えるのでは?」と期待して、ケアマネジャーや役所に問い合わせる手間をかける方もいます。この点は最初にはっきりさせておくと、迷いが減ります。ソックスエイドは実費の自助具と割り切って、購入時は販売ページで最新の価格・仕様をご確認ください。
目的で分かれる、2つの道具
第1章の「道具は先に決めない」に戻ります。ここが、この記事の交通整理です。同じ「靴下の困りごと」でも、助けたい相手が違えば、選ぶ道具が変わります。
🔀 目的で選ぶ
【本人が「自分で履きたい」】→ ソックスエイド
前かがみになれなくても、座ったまま自分で履ける。自立を助ける道具です。
【介助者が「楽に履かせたい」】→ 履き口が広く伸びる靴下
するっと通せて、引き上げる摩擦が少ない。介助の負担を軽くする選び方です。
もちろん、両方を組み合わせることもあります。本人がソックスエイドで途中まで履き、仕上げを家族が手伝う。あるいは、履き口の広い靴下をソックスエイドで履く、という併用もあります。大事なのは「どちらか一つが正解」と思い込まないこと。目的がはっきりすれば、道具は後から選べます。
「使わない」という選択もある
第4章の「向かない・注意が要る人」に当てはまる場合、あるいは実際に試してみてうまく使えなかった場合は、無理にソックスエイドを使い続ける必要はありません。道具に人を合わせるのではなく、その人に合う方法を選ぶ。当たり前のようで、見落とされがちな視点です。
ただし、「うまく使えない=その人には向いていない」と即断しないことも大切です。前章で触れた作業療法部門の報告のように、本体の形や持ち手を工夫することで使えるようになることがあります(DINF「ソックスエイドの適応」)。うまくいかないときは、”向いていない”のではなく、道具の調整や、別の方法が要るサインかもしれません。自己判断でやめてしまう前に、作業療法士(OT)・理学療法士(PT)に一度相談してみると、その方に合う形や、別の助け方が見つかることがあります。
そのうえで、ソックスエイドを使わないときの、代わりの選択肢を挙げておきます。①履き口が広く伸びる靴下に替える——道具を使わなくても、履く・履かせる動作そのものがラクになります。②介助の方法を工夫する——後述の「たぐって短くしてから履かせる」ようなコツで、負担が変わります。③OT・PTに相談する——その方の体の状態に合った、履き方そのものを一緒に見直せます。
「せっかく買ったのだから使わないと」と気負う必要はありません。「この人には、この道具は合わなかった」と見極めて、別の方法に切り替えること自体が、りっぱな選択です。合わない道具を使い続けるほうが、かえって困りごとを長引かせてしまいます。
練習は「履き口がゆるい靴下」から
ソックスエイドを使い始めるとき、いきなり厚手でゴムの強い靴下で挑戦すると、道具に靴下を通す工程でつまずきがちです。前掲の神奈川県総合リハビリテーション事業団の資料でも、「履き口がゆるめの靴下か、スニーカーソックスなど長さの短い靴下で練習を重ねていくことをおすすめします」と案内されています。慣れるまでは、通しやすい靴下で成功体験を積むのが近道です。
この「履き口を見る」という視点は、実はこのクラスターでずっとお伝えしてきたことと同じです。締めつけの強い靴下は、ソックスエイドでも手でも履きにくい。逆に、履き口にゆとりのある靴下は、道具でも介助でも扱いやすいのです。履き口まわりの選び方は、滑り止め靴下の選び方やむくみ対応・締めつけない靴下の選び方で詳しく扱っているので、あわせてご覧ください。
参考例:ソックスエイドと履かせやすい靴下
以下の商品は参考例として掲載しています。TOCHIは実際の販売・使用経験がないため、公表されている仕様や特徴をもとに整理しています。おすすめの順位付けではありません。ご自身・ご家族の状態に合うかは、第4章の「向く人・向かない人」も見ながらご判断ください。
ソックスエイドは、第3章で触れたとおり型(素材)によって扱いやすさが変わります。手の力や使う場所を思い浮かべながら、タイプで見比べてみてください。
しっかりセットしやすい:硬質プラスチックタイプ
🔍 探偵TOCHIの鑑定
むぎの一言:
形がしっかりしてるから、最初の一本に選ばれやすいワンね。
足あたりがやさしい:やわらか素材タイプ
🔍 探偵TOCHIの鑑定
むぎの一言:
やさしい当たりで、収納もコンパクトなのがうれしいワン。
軽くて持ち運びやすい:布・メッシュタイプ
🔍 探偵TOCHIの鑑定
むぎの一言:
軽いから、おでかけのおともにいいワン!
「履かせやすい靴下」を探している方へ
介助して履かせる負担を軽くしたい方は、道具より先に「履き口が広く伸びる靴下」を検討すると、毎日がぐっとラクになります。徳武産業(あゆみ)の「靴下のびのび」など、伸縮性を活かして履かせやすさに配慮した靴下があります。こうした具体的な商品は、むくみ対応・締めつけない靴下の選び方で状態別にご紹介しているので、そちらをご覧ください。この記事では重複を避け、「履かせやすさ」という目的の入り口までをご案内します。
履かせるときのコツも一つ添えておきます。足先から一気に引き上げるのではなく、先に靴下を手繰り寄せて短くしておき、つま先・かかとを入れてから、少しずつ折り返すように上げていくと、余計な摩擦をかけずに履かせられます。高齢の方の皮膚は薄く傷つきやすいので、あわてず、なでるように。道具を使わなくても、この一手間で負担はずいぶん変わります。
まとめ:道具は、先に決めない
最後に、いちばん大切なことをもう一度。道具は、先に決めない。「誰を助けたいか」が決まると、選ぶ道具も自然に見えてきます。本人の自立を助けたいならソックスエイド、介助を楽にしたいなら履き口の広い靴下。そして、合わなければ「使わない」という選択も、りっぱな答えです。
✅ 今日のポイント
- ソックスエイドは座ったまま履ける自助具。可動域制限・術後・片手不自由・前屈できない方に向く
- 両手で紐を引く道具。座位が不安定・握力が弱い・手順の理解が難しい場合は無理をしない
- 介護保険は使えず、購入は実費
- 迷ったらOT・PTに相談。「使わない」選択もあり。練習は履き口がゆるい靴下から
🕵️ TOCHIの正直な立ち位置
冒頭でもお伝えしたとおり、ソックスエイドは私自身、販売も使用もしたことがありません。だからこの記事では、店頭でのエピソードは一つも書いていません。代わりにできるのは、公表されている公的資料を正確に読み解き、「どんな人に向いて、どんな人には向かないか」の線引きを、経験ではなく事実としてお伝えすることです。履き口やむくみのご相談で「まず足元を順番に見る」——その考え方だけは、この道具にも通じていると思っています。
靴下の履きにくさは、生活の質に直結します。自己判断で道具をそろえる前に、ケアマネジャーには生活全体から、作業療法士(OT)・理学療法士(PT)には体の動きから相談すると、その方に合う方法が見つかりやすくなります。「靴下を履く・履かせるのが大変で」と一言、伝えるところから始めてみてください。



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