

相談があったのは、トイレの立ち上がりに不安を持っている方でした。
私は、トイレの手すりで、住宅改修の工事を扱っていました。据え置き型(置くだけ)の手すりも扱っていました。トイレの手すりを店頭で販売したことはありません。

私は福祉用具専門相談員として17年、福祉住環境コーディネーター2級の資格を持ち、手すりの相談を受けてきました。この記事では、トイレの手すりをどこに・どの向きで付けるかを、現場で見ていたことをもとにまとめます。
📋 この記事でわかること
✔ 扉を開けたときの便器の向きで、手すりの付け方がどう変わるか
✔ トイレで手すりを付ける場所と、縦手すりの位置の目安
✔ 左右や、両側か片側かを、動作を見て決める考え方
✔ 壁に付けられないトイレで使える、レンタルの手すり
トイレの手すりの位置で迷ったら、退院前ならリハビリ職に、在宅であれば担当のケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談してください。

最初に見るのは「扉を開けたときの便器の向き」
左右を決めるとき、まず見ていたのは、扉を開けたときに便器が横を向いているか、正面を向いているかです。ドアと便器の位置の確認です。

ドアを開けて正面に便器がある場合は、ハード面だけで見ると、両手・片手のどちらも候補になります。実際は、ご本人の動作や麻痺の有無、ADLを見て決めます。
扉を開けて便器が横向きに付いている場合は、両手の手すりだと入りにくくなる可能性があるので、そこは避けて、片手の手すりにする場合がありました。

📝 現場より
扉を開けて横向きの場合、便器に挟む型だと、肘掛けの部分が邪魔になったり、足元のベースが引っかかって危ないことがあります。そういう場合は据え置き型の手すりにして、扉から便器に向かう動線の邪魔にならないよう、あえて片手の手すりにすることがありました。

手すりを付ける場所は4つ
トイレで付けたことがある形は、縦・横・L型の全部です。場所も、便器の横・正面の壁・入り口の全部あります。
トイレで付けたことがあるのは、出入り口の縦の手すり、入ってからトイレまでの動線上の横の手すり、立ち座り用の縦の手すりです。動線上の横の手すりに縦を付けて逆T型にすることも、あえてL型にすることもあり、動線上の横の手すりがいらなければ、立ち座り用の縦の手すりだけのこともあります。トイレから出るとき用に、ドアノブの近くに縦の手すりを付けることもありました。
立ち座りのときは縦の手すりを持ち、座っている姿勢を保つときは横の手すりを持っている、ということはありました。

住宅改修でトイレに付けた手すりは、L型手すりが多かったです。
壁に付ける手すりは、介護保険の住宅改修の対象になりえます。厚生労働省の通知(老企第34号)では、住宅改修の「手すりの取付け」について、次のように定めています。
「住宅改修告示第一号に掲げる「手すりの取付け」とは、廊下、便所、浴室、玄関、玄関からの道路までの通路等に転倒予防若しくは移動又は移乗動作に資することを目的として設置するものである。手すりの形状は、二段式、縦付け、横付け等適切なものとする。」

住宅改修で手すりを付けるときは、原則として工事の前に申請が必要です。厚生労働省の「介護保険制度における住宅改修の概要」には、次のようにあります。
「住宅改修を行う際(*)は、必要な書類(住宅改修が必要な理由書等)を添えて、事前に市町村へ申請書を提出し、工事完成後、領収書等を提出することにより、保険給付される。」「(*)やむを得ない事情がある場合には、工事完成後に申請も可能。」
住宅改修の進め方は、住宅改修の手すりはどう進める?で、申請書にまとめるところまで書いています。

立ち座りの縦手すりは「便器の少し前」
便器の先端から先に離すと、握ろうとして前かがみになり、手すりを引くような立ち上がり方になることがあるので、少し離したところに縦の手すりを立てることはあったと思います。

📋 公式情報を調査
TOTOの施設(パブリック)用手すりの施工資料では、縦手すりの位置の目安として、便器先端から200〜300mm程度が示されています。
ただし、これは標準的な数値で、実際の取付位置は、使う方の使いやすさに合わせて決めるとされています。
数値は、目安として受け取ってください。テクノエイド協会の「トイレ用簡易手すり」の解説でも、選び方として次のように書かれています。
「1.取付位置は、身体のサイズや身体状況によって異なる。」

両側か片側か、左右は「動作を見て」決める
福祉用具のレンタルでは、床に据え置く型の手すりもあれば、トイレの便器に挟む型の手すりもあります。
私が扱っていた便器に挟む型は両側に手すりがあるタイプでした。据え置き型には、片側・両側を選べる製品もあります。どちらにするかは、トイレの形と使い方によって考える必要があります。

麻痺側だから外す、というわけではありません。トイレの中で回転するときに、その手すりを使うこともあります。動作を確認して、例えば左の麻痺足があり、左側の手すりをもう使わないと分かりきっているのであれば、左側の手すりを外すことは考えられます。どこかの動作で左側の手すりを使うのであれば、両側をそのまま残しておく選択肢も当然あります。これは、ご本人・ご家族と話し合って決めることが多かったです。
本人の希望と私の見立てが分かれることは、あまりなかったと思います。分かれた場合は、福祉用具専門相談員として、使いやすさ・使いにくさを経験から説明することはあったと思います。
扉から入って正面に便器があっても、もともと壁に手すりが付いている場合は、両手の手すりにすると手すり同士が干渉して邪魔になる場合もあります。トイレットペーパーが付いていると、両手の手すりではトイレットペーパーが使いづらくなることもあります。立ち座りに問題がなければ、片手の手すりでもいいのではという提案はしていたと思います。

テクノエイド協会の「住宅改修情報」でも、片麻痺の場合について、次のように書かれています。
「脳血管障害による片麻痺の場合は、左右の麻痺別の動作を確認し、手すりの位置や用具の配置を考える必要があります。」
🟩 TOCHIの判断ポイント|左右を決める前に
まず見る:トイレの中で立つとき・座るとき・向きを変えるときに、ご本人がどちらの手すりを使っているか。
なぜ:麻痺側だから外す、というわけではなく、トイレの中で回転するときに、その側の手すりを使うこともあるからです。
どうする:片側にするか両側を残すかは、動作を確かめたうえで、ご本人・ご家族と話し合って決めます。リハビリ職がいれば、その判断を仰ぎます。

ペーパーホルダーと、もとからある手すりに注意
L型手すりは、ペーパーホルダーにかぶらない付け方を見ていく必要があります。ペーパーホルダーにかぶっていて、その位置に手すりが必要であれば、ペーパーホルダーの移設も必要になります。
付け方を変えるとすれば、もともとある手すりと干渉して邪魔になる場合と、ペーパーホルダーの位置と手すりの位置が重なってトイレットペーパーが使いにくくなる場合です。手すりを外して据え置き型にすることもありましたし、手すりを跳ね上げた状態でトイレットペーパーを使えるようにしていたケースもあり、ケースバイケースです。

同じトイレを家族も使うことで、トイレの手すりの付け方を変えたことはありません。家族も使うことはありますが、邪魔にならなければ、付け方を変えることはありませんでした。
テクノエイド協会の「トイレ用簡易手すり」の解説では、壁に固定するタイプの使用上の注意として、次のように書かれています。
「E.使用上の注意:安全のため、壁への取り付けは、専門家に依頼したほうがよい。ペーパーホルダーとの取り合わせに注意すること。」

壁に付けられないトイレは、レンタルの手すりで
壁に手すりを付けられないトイレの相談は、賃貸なのでありました。
そのときは、据え置き型の手すりや、床から天井で突っ張るタイプの手すりのレンタルを提案していました。
置くだけ・据え置き型の手すりを自分で買った人は、ほぼいないと思ってもらった方がいいと思います。私が扱っていた範囲では、購入になるのは、介護保険でレンタルを使えず、自費で用意する必要がある方が中心でした。

テクノエイド協会の解説では、トイレの手すりを次のように分けています。
「トイレ(便所)に設置し、立ち上がりや座る動作を補助する用具。壁に固定するタイプ、床に設置するタイプ、便器に設置するタイプがある。」
便器を囲んで据え置く、工事を伴わない手すりは、介護保険の福祉用具貸与(レンタル)の「手すり」に当たります。厚生労働省の通知(老企第34号)では、貸与の「手すり」の一つとして、次のように定めています。
「② 便器又はポータブルトイレを囲んで据え置くことにより、座位保持、立ち上がり又は移乗動作に資することを目的とするものであって、取付けに際し工事を伴わないもの。」

厚生労働省の「福祉用具・住宅改修」のページでは、要支援・要介護1の方について、次のように案内されています。
「(※)福祉用具貸与のうち、手すり、スロープ、歩行器、歩行補助つえ以外の種目については、要支援及び要介護1の方は、原則給付の対象外となります。」
この案内では、手すりは「原則給付の対象外」となる種目に入っていません。工事ができないトイレで手すりを考えるときは、買う前に、担当のケアマネジャーや福祉用具専門相談員に、レンタルで使えるかを相談してください。

据え置き型などレンタルの手すりには幅があるので、トイレの幅が狭いところは入れにくいことがあり、確認が必要です。ここは付けにくいと思いました。
メーカーの表示を、1社の例として載せておきます。アロン化成(安寿)のトイレ用手すり(レンタル)の一覧では、製品幅が「66cm」・「67cm」と表示されています。商品ページでは、据え置き型が「幅66×奥行47×高さ56・59・62・65cm(4段階)」、便器に挟む型が「幅66×奥行55×高さ55~70cm」です。ほかの製品の幅は、製品ごとに確かめてください。
安寿の便器に挟む型(S-はねあげR-2)の取扱説明書では、取り付けの条件として、次のように書かれています。
「A 寸法が14㎝以上、40㎝以下の便器に取り付け可能。」「取り付ける前にトイレのドアの寸法を確認してください。」「トイレのドア寸法 55cm 以上」

据え置き型を置いて困った例としては、ご家族がトイレの掃除に困っていたことがあります。そのご家庭では、据え置き型では便器の奥まで掃除できていましたが、便器に挟み込むタイプでは、なかなか奥まで手が届かないところで、掃除に困っていました。
同じ取扱説明書の「お掃除のしかた」では、汚れやすい場所として、次のように書かれています。
「ひじ掛け支柱などは、尿がかかり、汚れがつきやすいところです。」

📝 現場より
幅の狭いところに無理やり入れようとして、壁に傷をつけたことがあります。それは私のミスです。
手すりだけで足りないとき
トイレに入って、扉と便器の向きのほかに見ていたのは、便座の高さです。
昔の洋式トイレは、便座までの高さが低いことがあります。
📝 現場より
立ち座りがしにくいときは、便座の高さを補う補高便座をよく提案していました。
補高便座には、介護保険の特定福祉用具販売の対象となるものがあります。

ここで気をつけないといけないのは、便座を高くすることで、温水洗浄便座が少し反応しにくいケースがあることです。それだけは一度確認しておいた方がいいと思います。
安寿の補高便座の取扱説明書にも、温水洗浄便座で使うときの注意として、次のように書かれています。
「※温水洗浄便座をご使用の場合、機種によっては以下のことが起こります。」「・常時 OFF になる…シャワーや脱臭が作動しません。」「・時々 OFF になる…シャワーや脱臭が時々作動しません。」

手すりを付けても足りなかったのは、さきほどの補高便座のところです。
厚生労働省の通知(老企第34号)では、介護保険の特定福祉用具販売の「腰掛便座」として、次のものを定めています。
「① 和式便器の上に置いて腰掛式に変換するもの(腰掛式に変換する場合に高さを補うものを含む。)。」「② 洋式便器の上に置いて高さを補うもの。」
購入で介護保険を使うときは、買う前に、担当のケアマネジャーや特定福祉用具販売事業者に相談し、お住まいの自治体の手続きも確認してください。
ポータブルトイレについては、寝室からトイレまでの距離が遠く、日中は行けても夜間は間に合わないので、ポータブルトイレと使い分けることがあります。

ポータブルトイレを置く場所の考え方は、ポータブルトイレの選び方にまとめています。
和式も本当に少なくなりましたが、ごくまれにあります。その場合は、和式の上に置いて後付けで洋式にする、高さを補う便座を購入することもありました。過去に数度、洋式にする住宅改修の工事を行ったこともあります。
和式便器を洋式便器に替える工事は、住宅改修の対象になりえます。老企第34号では、次のように定めています。
「住宅改修告示第五号に掲げる「洋式便器等への便器の取替え」とは、和式便器を洋式便器に取り替えや、既存の便器の位置や向きを変更する場合が一般的に想定される。」

決めるのは本人の動作。リハビリ職がいれば判断を仰ぐ
ここまで、扉と便器の向き、付ける場所、左右、工事できないときの方法を見てきました。最後に、最初の「扉を開けたときの便器の向き」に戻ります。
手すりだけで足りるかどうかは、ご本人の動作を見て判断します。
退院前の家屋調査では、よく本人と立ち上がりの確認をします。リハビリ職がいれば、こちらがどこに付けるかを決めるより、リハビリ職の専門的な知見から、どこに付けたらいいかの判断を仰ぐことにしています。

付けたのに使わなくなった・外した例は、特にありませんでした。
付けたあとで「思ったより圧迫感がある」と言われたことはありました。ただ、手すりが欲しい前提で入れているので、「便利」と言われることの方が多かったです。
③で見たとおり、取付位置は人によって違います。扉と便器の向きを見て、そこで立つ・座る・向きを変えるご本人の動きを、担当のケアマネジャーや福祉用具専門相談員、リハビリ職と一緒に確かめてから決めてください。「何cmだからここ」ではなく、その動きに合う場所が、手すりを付ける場所です。
トイレ以外の場所も含めて、家全体で手すりを考えるときは、介護用の手すりはどこに付ける?にまとめています。

まとめ
✅ まとめチェックリスト
✔ 扉を開けたときに、便器が正面を向いているか、横を向いているか
✔ 手すりを付ける場所(出入り口・動線・立ち座り・ドアノブの近く)を決めたか
✔ 両側か片側か、左右は、ご本人の動作を見て決めたか
✔ 壁に付けられるか。付けられないなら、レンタルの手すりを担当に相談したか

出典一覧
- TOTO 施工資料集「パブリック用手すり」(手すりの取付位置について/L型+可動式手すりの場合)(確認日:2026年10月5日)
- TOTO Q&A資料「手すり設置位置」(2019.4.16)(確認日:2026年10月5日)
- TOTO Q&A「Ⅰ型・L型手すり、紙巻器の設置位置を教えてください。」(確認日:2026年10月5日)
- 公益財団法人テクノエイド協会「トイレ用簡易手すり」(確認日:2026年10月5日)
- 公益財団法人テクノエイド協会「住宅改修情報」(確認日:2026年10月5日)
- 厚生労働省「介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて」(老企第34号)(確認日:2026年10月5日)
- 厚生労働省「福祉用具・住宅改修」(確認日:2026年10月5日)
- 厚生労働省「介護保険制度における住宅改修の概要」(確認日:2026年10月5日)
- アロン化成(安寿)「トイレ用手すり(レンタル)」(確認日:2026年10月5日)
- アロン化成(安寿)「アットグリップ トイレサポート」(確認日:2026年10月5日)
- アロン化成(安寿)「洋式トイレ用フレーム S-はねあげR-2」(確認日:2026年10月5日)
- アロン化成(安寿)「洋式トイレ用フレーム S-はねあげR-2」取扱説明書(確認日:2026年10月5日)
- アロン化成(安寿)「補高便座」取扱説明書(確認日:2026年10月5日)
※③の縦手すりの位置の目安は、TOTO施工資料集の「便器先端〜縦手すり」「200〜300mm程度」と、注意書き「※寸法は標準的な数値で示しています。使用者が特定できる場合は、その方の使いやすさにあわせて取付位置を決定してください。」によります。TOTO Q&A資料「手すり設置位置」でも、「便器先端より ※250程度」「※250程度(200~300)」とされています(資料に単位の表示はありません)。Q&A本文の注意書き:「資料に記載している寸法は、標準的な数値で示しています。」
執筆・確認:福祉グッズ探偵TOCHI


コメント