


車いすは、「買う」前に、「合う」を確かめる
車いすは、「買う」前に、「合う」を確かめる。
使う人の体格や暮らし、こぐ人・押す人、住まい、持ち運びまで専門職と実際に確かめ、レンタルも含めて選びます。
急いでいるときほど、量販店などで標準型の車いすを安易に買ってしまいがちです。けれど、あとから本当に本人に合わせたいとなったとき、その一台は不要になり、大きな道具だけに処分に困ることもあります。だからこの記事は、車いすの種類の前に、用意のしかた(借りる・買う)から整理します。
「合う」の中身は、体格だけではありません。誰が動かすのか、家のどこを通るのか、車に積むのか、どのくらいの期間使うのか——暮らし全体との釣り合いです。ここを確かめてから決めれば、急いでいても選び直しの少ない一台にたどり着けます。
🟩 TOCHIの判断ポイント|車いすを用意するとき
まず見る:誰が動かすか(自分で漕ぐか、押してもらうか)と、どこで使うか
なぜ:車いすは駆動・大きさ・調整のしかたで種類が分かれ、体格や暮らしに合わないと使いにくく、身体の状態が変われば合う車いすも変わるため
どうする:認定の状況と使う期間もあわせてケアマネジャーや福祉用具専門相談員に伝え、借りる・買うを含めて一緒に確かめて選ぶ
借りる?買う?|車いすを用意する3つの道
どの道を選ぶ場合も、入口は同じです。まず、担当のケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談する——ここが3つの道すべての前提になります。そのうえで、用意のしかたは大きく3つに分かれます。

① 介護保険レンタル
車いすは介護保険の貸与(レンタル)種目で、利用は原則として要介護2以上が対象です。身体状況などの変化に応じて適時・適切な用具を利用できるよう、介護保険の福祉用具は貸与が原則です。車いす・歩行器は介護保険レンタルでの利用が主で、販売は少ないのが実情です。
レンタルが主流なのには理由があります。身体の状態(ADL)が変わると、合う車いすも変わっていくためです。売り場でも、だからこそいつでも販売を勧めていたわけではありません。本当に必要なのに保険で借りられない方に限って、購入をご提案していました。
軽度の方は原則として車いす貸与の対象外ですが、状態や生活環境によって例外となる仕組みがあります。購入を決める前に、ケアマネジャーや自治体へ確認してください。
② 自費レンタル
介護保険を使わずに、自費で借りる道もあります。骨折などで一時的に車いすが必要になった場面や、まだ介護認定の手続き中で保険のレンタルに乗れない場面で使われます。使う期間が短いと見込めるなら、買わずに済ませられる選択肢です。保険のレンタルに乗れない方は、①認定がまだ取れていない方(これが最も多い)、②いわゆる自立で介護度がつかない方、③一時的に必要な方——の3つの場面に分かれます。自分がどれに当たるかで、自費レンタルと購入のどちらが向くかが変わってきます。
③ 購入
継続して使う見込みがあるのに、介護保険のレンタルに乗れない場合——認定がまだの方、いわゆる自立で介護度がつかない方などは、購入が選択肢になります。ただし身体の状態が変われば合う車いすも変わるため、「継続して使うか」「保険に乗れる見込みはあるか」を先に整理してから決めます。制度の全体像は総論に、借りながら合わせていく考え方は歩行器・歩行車の記事にまとめています。
🕵️ TOCHIの現場メモ:退院などで急に必要になった場合、店頭在庫のある標準型なら、そのまま販売でお渡しできることがあります。TOCHIが対応した現場では、中1日で用意できた例もありました。ただし、在庫や地域、必要な機種によって異なります。
車いすの種類|誰が動かすか・どこで使うか

※この図だけで車いすを決めず、体格や住環境に合わせて実際に試します。
自走型と介助型
自走型は、後輪の外側に付いたハンドリムを自分の手で漕いで進むタイプです。そのぶん後輪が大きく作られています。介助型は、押してもらうことを前提にしたタイプで、後輪が小さく、軽めに作られています。「誰が動かすのか」——自分で漕ぐのか、押してもらうのか。ここが車いす選びの最初の分かれ道です。
自走型にも介助者用のハンドルは付いているので、「自分で漕ぐこともあれば、押してもらうこともある」という使い方はできます。迷ったら、ふだんの暮らしでどちらの場面が多いかを専門職に伝えて、実物で確かめながら決めていきます。
家の中で使う場合
家で使うなら、間取りと廊下幅を見ます。廊下や出入口の幅、曲がり角、方向転換する場所の広さによって、通れる車いすの大きさが変わるためです。廊下そのものは通れても、部屋への曲がり角で切り返しができない——ということもあるので、「通る」だけでなく「曲がる・回る」まで含めて見ておきます。
取り回しに小回りが要る住まいでは、幅の狭いものや六輪タイプ(車輪の配置で回転半径を小さくした形)が候補になることがあります。また、足で床を蹴って進む使い方をする場合は、座面の低い低床タイプが候補になることがあります。どちらも、図面や想像だけで決めず、実際の住まいで取り回しを確かめてから選びます。
外で使う場合
外出で使うなら、車への積み込みまで考えます。積み込みをするのはご家族であることが多く、その場合は軽量の介助型が候補になることが多くありました。ただしこれも、実際に持ち上げる人が実物の重さと畳みやすさを確かめてから決めるのが確実です。なお、似た場面で使われるシルバーカーとの違いは総論で整理しています。
体に合わせる車いす|標準型・多機能型・モジュール型
同じ自走型・介助型でも、体への合わせ方で3つのタイプに分かれます。
標準型・多機能型・モジュール型
標準型は、肘掛けやフットサポートが固定された、いちばん汎用的な形です。量販店などで見かける車いすの多くはこの形で、体への細かな合わせ込みはできません。
多機能型は、肘掛けの跳ね上げや、フットサポートのスイングアウト(外側への開き)ができるタイプです。肘掛けが上がりフットサポートが外に開くと、ベッドや椅子との間の移乗(乗り移り)のときに体を横へ動かしやすくなります。ベッドとの行き来が毎日ある暮らしでは、ここが効いてきます。
モジュール型は、各部の位置や角度を体格に合わせて調整できるタイプです。使いながら細かく合わせ込んでいけるのが持ち味で、体格や姿勢に合わせたい場面で選ばれます。
多機能型やモジュール型には、肘掛けやフットレストなどを調整できる製品があります。拘縮などがある場合は、身体に合わせた個別の調整が必要になるため、家族だけで選ばず専門職へ相談します。
座幅は38〜45cmといった展開があり、体格に合わせて選びます。座幅が合っていないと、座ったときの姿勢にも、漕ぎやすさにも影響します。どのサイズが合うかは、専門職が測って合わせます。ここは家族の目分量で決めないところです。
タイヤの種類
タイヤは大きくエアタイヤとノーパンクタイヤ(ハイポリマー等)に分かれます。エアタイヤは空気の弾力があり、乗り心地に配慮したタイプです。ノーパンクタイヤは空気補充が不要です。ただし使用前後の点検は必要です。使う場所や手入れのしかたと合わせて、選定時に相談します。
車いすは、座面のクッションも含めて合わせる
見落とされやすいのが車いす用クッションです。車いすに長時間座って過ごす場合、クッションも大切な選定項目になります。実際、必要性があるのに選ばれていない方もいました。車いすは「座る道具」でもあるので、座面をどう整えるかは本体選びと切り離せません。
車いす用クッションは、車いす付属品として介護保険貸与の対象になり得ます。「とりあえず市販の座布団を置けばよい」とはせず、本人の状態や車いすとの組み合わせを、選定の段階から専門職と一緒に確認してください。車いす本体を相談するときに「クッションはどうしますか」と一言添えるだけで、この見落としは防げます。
ティルト・リクライニングという選択肢
ティルト・リクライニングは、座面や背もたれの角度を調整できる車いすです。座位を保ちにくい場合などに検討されますが、必要な機能や角度は本人によって異なるため、専門職による選定が必要です。
ティルトは座面と背もたれの角度を保ったまま全体を傾ける機構、リクライニングは背もたれだけを倒す機構で、両方を備えた製品もあります。どの機構がどれだけ必要かは、姿勢の状態や過ごし方によって変わります。ここは第3章・第4章でみてきた「誰が動かすか」「体への合わせ方」とはまた別の軸なので、気になる場合はその旨をそのまま専門職に伝えてください。
🕵️ TOCHIの現場メモ:こうした機能が必要な場面では、TOCHIの現場では、身体状況の変化に応じて交換しやすいレンタルで対応することが中心でした。
電動カートは、実車と使う経路まで確かめる
電動車いすや、ハンドル型の電動カートも、制度の上では車いすの種目に含まれます。自分で漕ぐ・押してもらうといった力に頼らず移動できるぶん、行動範囲が広がるのが特徴です。ただし、その広がりは確かめることの多さと裏表で、選び方は標準型の車いすと大きく異なります。
保管場所と充電場所があるか。どこまで行くのか。通る道は通れるのか。操作はできるのか——これらは、カタログだけでは確かめられません。操作できるかどうかを本人や家族だけで判断するのではなく、事業者が実車を使い、実際に使う経路で確認するプロセスを経て選びます。
行動範囲が広がる道具だからこそ、確かめることも増えます。電動カートの詳しい選び方は、あらためて別の記事で扱う予定です。
旅行や外出のために、持ち運べる一台がほしいとき
車いすの販売で実際に多かったのは、「急に必要になった」と、もうひとつ——「旅行用にコンパクトに畳めるものがほしい」という場面でした。ふだんは保険のレンタルで主力の一台を使いながら、新幹線での移動などに持って行ける二台目がほしい。そうした方に、コンパクトに折り畳めて専用バッグの付いたタイプが選ばれ、TOCHIもこれまでに10名ほどへの販売をお手伝いしました。
先に、限界もお伝えしておきます。持ち運びやすさを優先した簡易車いすで、日常的に長時間使う主力の車いすとは役割が異なります。ふだんの一台とは別の、「出かけるための一台」として考えてください。

ハンディライト100(ユーキ・トレーディング)。座幅45cm・耐荷重100kgで、コンパクトに折り畳めて専用バッグが付属します。安全性については、JASPEC(一般社団法人日本福祉用具評価センター)によるJIS規格に準じたテストを実施しています。
ハンディライトプラス(ユーキ・トレーディング)。本体約8.2kgと軽く、幅・奥行きとも小さく折りたためるタイプで、専用バッグが付属します。こちらもJASPEC(一般社団法人日本福祉用具評価センター)によるJIS規格に準じたテストを実施しています。
先に確認したい点:座幅38cm・耐荷重75kgのため、体格に合うかを確認してから選びます。
このハンディライトプラスについて、メーカーは、全幅49cmで改札や新幹線の通路も通過しやすいサイズと案内しています。折りたたむと後部座席の足元にも収まる設計ですが、実際の車種や車内環境は事前に確認します。
ハンディライト100は、座幅45cmと耐荷重100kgで、座面のゆとりや耐荷重を重視したい方に。ハンディライトプラスは、8.2kgで幅・奥行きとも小さく折りたため、軽さと収納性を優先したい方に。
介護保険で借りられず、継続して使う場合の購入候補
第2章の整理に戻ります。使う期間が短いと見込めるなら自費レンタル、継続して使う見込みがあるのに保険のレンタルに乗れない場合が、購入を考える場面です。売り場でも、本当に必要だけれど保険で借りられない方に限って、購入をご提案していました。
購入する一台には、第4章でみた「体への合わせ方」がそのまま関わってきます。長く使う前提だからこそ、標準型で間に合わせるのではなく、移乗のしやすさなど暮らしの場面に合った機能を持つものを選びたいところです。
BAL-R3(ミキ)。売り場で実際に販売していたBALシリーズの自走型で、肘掛けの跳ね上げとフットサポートのスイングアウトを備えた多機能タイプです。座幅は40cm。移乗のしやすさに関わる機能が入っているため、ベッドとの行き来がある暮らしで力を発揮します。タイヤは空気補充が不要なノーパンクタイプです(使用前後の点検は必要です)。
先に確認したい点:体格や住まいの通路幅に合うかは、購入前に実物や採寸で確かめます。
購入する場合も、体格や使う場所に合うかどうかの確認は欠かせません。買う前に、福祉用具専門相談員などの専門職へ相談してください。
使い始めたあと、合わなくなったら
身体の状態(ADL)が変われば、合う車いすも変わっていきます。使い始めたときがゴールではありません。レンタルなら交換で、購入した場合も次の一台の相談で、その時々の体に合わせ直していけます。次のような変化は、専門職へ相談するときの観察材料になります。
- 座っている姿勢が以前より崩れやすくなってきた
- 漕ぐ・押すの動作に、以前より時間や力が必要になってきた
- 使う場所や場面が変わった(外出が増えた・室内中心になった)
⚠️ 見直しポイント
上のような変化に気づいたら、合う・合わないを家族だけで判断せず、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員へそのまま伝えてください。今の身体と暮らしに合う車いすかどうかは、専門職と実際に確かめながら見直していきます。
段差や坂道、移乗時の介助方法は、車いすの構造や本人の状態、使用環境によって異なります。納品時に事業者から実機で説明を受け、介助する家族も一緒に確認してください。

この循環は、借りている場合も購入した場合も同じです。「相談する→実際に確かめる→決める→使う→変化したら見直す」——車いすとのつき合いは、この輪をゆっくり回していくことだと考えてください。
まとめ
車いすの用意には、介護保険レンタル・自費レンタル・購入の3つの道があります。種類は「誰が動かすか」「どこで使うか」で分かれ、体への合わせ方で標準型・多機能型・モジュール型に分かれます。そして、身体の状態が変われば合う車いすも変わります。急いで買う前に、専門職と「合う」を確かめる——それがこの記事の結論です。

🔍 調査結果カード|車いすの選び方
車いすは『買う』前に、専門職と『合う』を確かめる
移動の道具を整えたら、足元も見直しておくと土台が安定しやすくなります。靴は介護靴の選び方、靴下は介護用靴下の選び方にまとめています。




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