親御さんの歩きに不安が出てきたとき、多くのご家族が「杖にしようか、シルバーカーにしようか、それとも歩行器か」と道具の名前から迷い始めます。ところが、身体の状態だけで選ぶと「買ったのに使われない」ということが、現場では本当によく起こります。この記事では、それぞれの道具が何を支えるために作られているかを入口に、歩き方だけでなく、荷物・買い物・休憩・収納といった「使い方」まで一緒に考えていきます。
🕵️ 忙しい方へ(この記事の要点)
- 杖・シルバーカー・歩行器は、それぞれ「支えているもの」が違う道具です。
- 選ぶときは〈どんな支えが必要か〉→〈どう使うか(荷物・買い物・休憩・収納)〉の順で見ると外しにくくなります。
- シルバーカーと歩行器は、ハンドルの形が手がかりになりますが、それだけでは決まりません(U字ハンドルのシルバーカーもあります)。最後は体を支える道具か、荷物や休憩を補助する道具かで見ます。
- 一本杖とシルバーカーは実費購入、多点杖や歩行器は借りられることもあります。迷ったらケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談する道があります。


杖・シルバーカー・歩行器は、何を支える道具か

杖・シルバーカー・歩行器は、名前は違っても、どれも歩きや移動を支える道具です。ただし、支えている中身はそれぞれ違います。杖とシルバーカーは、どちらも自分で歩ける方の動作を補助する道具として案内されています。一方、歩行器・歩行車は移動時に身体を支える用具であり、必要な支え方が異なります。
たとえばシルバーカーを作る島製作所は、各商品に「自立歩行できる方が、より安定して歩行できるよう補助的に使用するタイプのシルバーカーです」と注記しています。杖専門メーカーのシナノも同じ立場です。同社の伸縮杖「ソフト-Gストロング」の取扱説明書には、「この杖は、杖を持たなくても自立歩行できる人がより安定した歩行をするために、補助的に使用するものです」と明記されています。歩行器・歩行車は、これらとは役割が異なり、体を預けて移動を支えるための用具です。
ここで大切な注意があります。「杖とシルバーカーは同じ人向け」と単純化しないことです。共通しているのは「どちらも自立歩行できる人の動作を補助する道具として示されている」という一点だけ。そこから先、それぞれが補助する対象は分かれていきます。
| 道具 | 何を補助するために作られているか |
|---|---|
| 一本杖 | 歩くときの補助 |
| 多点杖 | 接地面を広く取る |
| 歩行器・歩行車 | 移動時に身体を支える |
| 車いす | 歩く距離を減らして移動する |
| シルバーカー | 移動・荷物・休憩の補助 |
こうして並べると、同じ「歩きを支える道具」でも、支える中身がずいぶん違うことが分かります。必要な支えは、身体状況・場所・操作方法などを合わせて検討します。どれが上でどれが下という順番や段階があるわけではありません。
なお、家の中で壁や家具へ手を伸ばす場面が多い場合は、持ち歩く用具だけでなく、手すりのように住まい側の支えを検討するという方法もあります。
🟩 TOCHIの判断ポイント|家の中での手の添え方を見る
まず見る:家の中で、壁や家具、手すりへどのように手を添えているか
なぜ:触れ方や体重のかけ方は、今どの程度の支えを求めているかを知る手がかりになるからです
どうする:軽く触れているのか、強く握っているのか、両手で支えているのか——その様子を整理し、用具を自己判断で決めず、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談してみてください
🟨 用具の前に、確認したいこと
歩き方が急に変わった、これまでと違う痛みやしびれがある、片側だけ動かしにくい——そうした変化があるときは、用具を選ぶ前に医療機関へご相談ください。
どう使うか——荷物・買い物・休憩・収納

身体の状態に合った道具を選んだはずなのに、家でしまい込まれてしまう。その多くは、「暮らしの中でどう使うか」が抜けているために起こります。どんなに体に合っていても、毎日の買い物や外出の場面で使いにくければ、道具は自然と出番を失います。道具は、実際の生活の場面にはまって初めて使われます。ここでは、選ぶときに一緒に見ておきたい4点を挙げます。
① 荷物──買い物袋を持てるか
片手が杖でふさがると、荷物を持てる手は一本だけになります。買い物や通院で荷物を持つ機会が多い方は、「杖を持ったまま荷物をどう運ぶか」を先に思い浮かべておくと、道具選びが現実的になります。
② 買い物──週に何回、どこまで
買い物の頻度と距離、そして運ぶ量は、必要な容量を決める材料になります。現場でシルバーカーをご案内するときも、私はまず「何を、どれだけ運ぶか」から確認していました。毎日近所へ少しずつ買う方と、週に一度まとめて買う方とでは、向いている大きさが変わります。
③ 休憩──途中で座る必要があるか
外出の途中で座って休みたくなることがあるなら、座面付きの道具が候補に入ります。休める場所を持ち歩けるかどうかは、外出の範囲そのものを左右します。
④ 収納──玄関に置けるか
折りたためない道具は、置き場所に困って使われなくなることがあります。玄関やその近くに置けるか、たためばすき間に収まるか。この一点で、日々の出し入れのしやすさが変わります。
🟩 TOCHIの判断ポイント|買い物の帰り道の荷物を聞く
まず聞く:買い物の帰り道、荷物をどう持っているか
なぜ:荷物の持ち方が変われば、必要な道具も変わるからです
どうする:片手がふさがってつらそうなら、杖だけでなく、荷物ごと支えられる道具も候補に入れて相談してみてください
杖を使う方は、杖の置き場所も確認する
シルバーカーには、杖や傘を収められるホルダー付きの製品があります。付いていない製品でも、対応する後付け用品が使える場合があります。杖とシルバーカーを場面によって使い分ける方は、杖の収納方法もあわせて確認しておくと安心です。
⏱ 30秒ミニチェック
☐ 外出のとき、途中で座りたくなることがある
☐ 買い物の荷物を持って帰るのがつらい
☐ 家の中で、壁や家具に手を添えることが多い
☐ 道具を置く場所が玄関にない
当てはまった項目が、道具を選ぶときに見るところです。点数をつけるものではありません。
見分け方と、買う? 借りる?

シルバーカーと歩行器は見た目が似ていて、店頭でも迷いやすい道具です。見分けるときの手がかりのひとつが、ハンドルやフレームの「かたち」です。
🟩 TOCHIの判断ポイント|ハンドル・フレームの囲み方を見る
まず見る:ハンドルやフレームが、体の前と左右を囲む形になっているか
なぜ:体の前と左右を囲む形は、体を支えられる範囲が広く、左右にふらついたときも支えになります。一直線のハンドルは支えられる範囲が前だけで、左右の揺れには対応しません。ただし、これは手がかりの一つです。U字ハンドルのシルバーカーもあります
どうする:形だけで決めず、体を支える用途の道具か、荷物や休憩を補助する道具かを、メーカーの製品区分や登録情報で確認してください。体を預けたいのであれば、歩行器を検討します
もう少し、その理由まで踏み込んでみます。人が立っているとき、体を支えているのは両足が地面に接している範囲です。この範囲が広いほど、少しぐらついても倒れにくくなります。道具が加わると、支えられる範囲はさらに広がります。ただし、広がる方向が道具によって違うのです。
一直線のハンドルは、支えを前方に広げます。前に体重を預けるぶんには助けになりますが、横に傾いたときに受け止める場所がありません。いっぽう、体の前と左右を囲む形なら、横の揺れにも支えがあります。似て見えても、支えてくれる方向が違う——これが見分けの手がかりになります。
ただし、ハンドルの形は手がかりになりますが、それだけでは決まりません。実際に、U字ハンドルのシルバーカーもあります(島製作所のフォルテなど)。最後は、その道具が「体を支えるため」のものか、「荷物や休憩を補助するため」のものか——メーカーがどう位置づけているかを確認してください。他のサイトが「コの字=歩行器、一直線=シルバーカー」で止まるところを、一歩踏み込んで見ておくと選び違いを防げます。
座席の位置にも、使い方の違いが表れます。手前に座席があり、握ったまま回って座れる製品もあれば、前方にあり、いったん回り込んで座る製品もあります。これはあくまで傾向で、すべての製品がどちらかに割り切れるわけではありません。どちらが良い悪いではなく、座り方の好みや体の動かしやすさで選ぶところです。実際に店頭で座ってみて、立ち座りのしやすさを確かめられると安心です。
買う? 借りる?
制度は道具選びの入口ではなく、あくまで判断材料のひとつです。おおまかな扱いを一覧にしておきます。
| 品目 | 制度上の扱い |
|---|---|
| 一本杖(T字杖)・杖先ゴム | 介護保険の対象外 → 実費で購入 |
| 多点杖 | 貸与と販売の選択制(令和6年4月〜) |
| シルバーカー | 介護保険の対象外 → 実費で購入 |
| 歩行器 | 貸与(歩行車を除く歩行器は選択制) |
| 車いす | 貸与 |

🔍 調査結果カード|対象外になる理由
一本杖(T字杖)が介護保険の対象外なのは、制度上の「歩行補助つえ」として、松葉づえ・カナディアン クラッチ・ロフストランド クラッチ・プラットホームクラッチ・多点杖が挙げられているためです。シルバーカーが対象外なのは、制度上の「歩行器」が「移動時に体重を支える構造」を持つものと定められており、シルバーカーがこれに当たらないためです。
ただし注意したいのは、ハンドルが囲む形(いわゆるコの字型)だから介護保険の対象、と形だけで決めつけないことです。制度上の「把手」には肘置きや連結フレームも含まれるため、形状だけで区分が確定するわけではありません。かたちは見分けの手がかりにはなりますが、制度上の区分は製品の登録情報や福祉用具事業所で確認するのが確実です。
制度の細かな手続きは、各論の記事にゆずります。選択制の具体的な手続きは多点杖の記事で詳しく扱っています。歩行器の選択制については、歩行器・歩行車の記事で詳しく扱っています。出典として、制度の根拠は次の資料で確認できます。
【出典】厚生労働省「福祉用具・住宅改修」/厚生労働省「選択制の対象とする種目に関する解釈」(PDF)/製品安全協会 SG基準0075(シルバーカー)
「対象外」と聞くと損をしたように感じるかもしれません。けれど見方を変えれば、制度の外にある道具だからこそ、自分で選ぶ目が必要になります。誰かが枠を決めてくれない分、暮らしに合う一台を、自分たちの目で選んでいけるということでもあります。
品目ごとの入口
ここからは、それぞれの品目への入口です。詳しい選び方は各論の記事で扱う予定なので、ここでは「どんな道具か」の要点だけを置いておきます。
一本杖
重症度ではなく、「使う頻度」で選ぶのがコツです。外出時やデザインを楽しみたいならステッキ、必要なときだけ携帯したいなら折りたたみ、日常的に使って長さを合わせたいなら伸縮タイプ。あわせて、杖先ゴムのすり減りの点検も忘れずに。詳しくは杖の選び方と、買ったあとに知ってほしいことにまとめています。
シルバーカー
選ぶ出発点は、「何を、どれだけ運ぶか」です。荷物の量と外出の範囲から、必要な容量と大きさが見えてきます。座面や収納の有無も、使い方に合わせて確認します。詳しくはシルバーカーの選び方(買い物と外出を、無理なく続けるために)にまとめています。
多点杖
脚が複数に分かれ、接地面を広く取るタイプです。貸与と販売が選べる品目でもあります。詳しくは多点杖の選び方|固定式・可動式の違いと使う場所にまとめています。
歩行器・歩行車
移動のときに身体を支える道具です。体を預けたい場合の候補になります。詳しくは歩行器・歩行車の選び方|種類の違いと介護保険レンタルにまとめています。
車いす
歩く距離を減らして移動するための道具です。長い距離の外出を助けます。詳しくは車いすの選び方|種類の違いと介護保険レンタル・購入の判断にまとめています。
このほか、松葉杖・ロフストランドクラッチ・2本杖などもありますが、使う場面が限られるため、ここでは名前を挙げるにとどめます。
足元も一緒に見る

杖や歩行器で上半身の支えを整えたら、いちど足元にも目を向けてみてください。歩きを支えているのは、道具だけではありません。
🟩 TOCHIの判断ポイント|靴のかかとの収まりを見る
まず見る:履いている靴のかかとが、大きく浮いていないか
なぜ:杖や歩行器だけでなく、靴の収まりや履き方も、歩くときの足元に関わるからです
どうする:用具を検討するときは、普段履いている靴も一緒に確認してみてください
杖や歩行器と一緒に、靴の選び方も確認したい方へ。足元の見直しには、次の総論記事もあわせてどうぞ。
まとめ
道具選びで大切なのは、歩き方だけでなく、使い方まで考えることです。順番や基準を絶対のものとせず、暮らしの場面から一緒に見ていく。ときには「今はまだ使わない」という選択も、立派な結論のひとつです。
✅ 今日のポイント
- 杖・シルバーカー・歩行器は、それぞれ支えているものが違う
- どんな支えが必要か → どう使うか(荷物・買い物・休憩・収納)の順で見る
- シルバーカーと歩行器は、ハンドルの形が手がかりになる(ただしU字ハンドルのシルバーカーもある)。最後は体を支える道具か、荷物・休憩を補助する道具かで見る
- 一本杖とシルバーカーは実費。多点杖や歩行器は借りることもできる
- 迷ったら、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に相談する道がある


🕵️ TOCHIの現場メモ
現場でご家族に最初に伺っていたのは、いつも「何を支えたいですか」でした。体そのものを支えたいのか、荷物や休憩を助けたいのか——そこがはっきりすると、候補はぐっと絞られます。道具を先に決めず、暮らしの場面から一緒に考える。遠回りに見えて、結局それが、いちばん使ってもらえる一台にたどり着く近道でした。


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