

住宅改修は「頼む前」に決まっている
この記事を読んでいる方の多くは、「住宅改修で手すりを付ける」こと自体はもう決めていて、どう進めればいいかを探している段階だと思います。ですから、制度の説明から始めるつもりはありません。先にお伝えしたいのは、住宅改修の仕上がりは、工事の腕前より前の段階——「頼む前」にほぼ決まっている、ということです。
同じ場所に同じ手すりを付けても、「使いやすい」と言っていただける工事と、「こんなはずでは」となってしまう工事があります。分かれ目は、決める過程でどれだけ確認を重ねたかです。どこに欲しいか、どう使いたいか、本当にその位置でいいか——これを提案のとき、申請のとき、工事当日と、繰り返し確かめていきます。
住宅改修は、一度で決めず、本人や家族と確認を重ねて形にします。
この記事では、私が福祉用具専門相談員として17年間続けてきた進め方を、最初の訪問から工事当日まで順番にお見せします。鍵になる確認は3つ。下の図の①②③が、この先の章とつながっています。なお、そもそもどこに付けるかをまだ迷っている方は、先に介護用の手すりはどこに付ける?|高さも位置も、生活に合わせて決めるから読むと、この記事に自然につながります。

何を確認するのか【確認①】
住宅改修の相談は、ケアマネジャーさんからの連絡で始まることがほとんどです。「手すりを付けたいお宅がある」と声がかかり、ケアマネジャーさんと一緒にお宅へ伺います。
家に上がって最初にするのは、図面を引くことでも、壁を調べることでもありません。ご本人に「どこに手すりが欲しいですか」と聞くことです。廊下、トイレ、玄関、浴室——ご本人の口から出てくる場所が、いつも出発点になります。
このとき、ご本人の希望とご家族の意見が違うこともよくあります。「本人は玄関と言うけれど、家族としてはトイレが気になる」——どちらかを切り捨てるのではなく、両方をお聞きして候補に並べておきます。
そのうえで、私たちは提案を返します。「ここに付けたら、こういう使い方ができますよ」「この位置なら、立ち上がるときにこう支えられますよ」。たとえばトイレなら、便器の横に縦の手すりを付けると、座る・立つの動きをまっすぐ支えられます。場所だけを聞いて終わりにせず、その手すりで生活がどう変わるかまで言葉にして、ご本人とご家族に提案内容の確認をとります。ここが、3つの確認の1つ目です。
図面より先に、本人がどう使いたいかを確認します。
寸法や壁の状態はもちろん見ます。ただ、それは「どう使いたいか」が決まったあとの話です。順番が逆になると、図面としては正しいのに、ご本人の動きに合わない手すりができあがってしまいます。
ご本人が言葉にしにくい場合は、実際にいつもの動きをしてもらいながら一緒に探します。廊下を歩いてもらう、トイレで立ち座りをしてもらう——動きを見ると、言葉より正確に「支えが欲しい瞬間」が見えてきます。その場で決めきらず、いったん持ち帰ってご家族と考えてもらうこともあります。
なお、浴室のご相談では、壁に固定する手すりのほかに、浴槽のフチに取り付ける浴槽用手すり(介護保険の貸与)という道具の選択肢もあります。浴槽まわりの選び方は浴槽用手すりとバスボードの選び方|ユニットバスに付くかはフチの厚みで決まるにまとめています。
この確認①がていねいにできていると、あとの工程は驚くほどまっすぐ進みます。逆にここが浅いまま先へ進むと、申請のやり直しや工事当日の迷いになって返ってきます。住宅改修の進め方は、最初の聞き取りがすべての土台です。
確認した内容を、申請書にまとめる【確認②】
場所と使い方が決まったら、次は書類の工程です。介護保険の住宅改修では、工事の前に市区町村へ申請を出し、住宅改修が必要な理由をまとめた書類(理由書)を添えます。私は、お宅で聞き取った内容をこの書類にまとめていました。つまり申請は「別の手続き」ではなく、確認①で重ねた内容が、そのまま形になる工程です。ここが2つ目の確認にあたります。
理由書には、どこに・なぜ・どんな動きを支えるために付けるのかを書きます。確認①でご本人の言葉と動きを確かめてあるほど、この書類は書きやすく、読み手にも伝わりやすくなります。聞き取りが浅いまま書いた理由書は、どこか一般論のようになってしまうものです。
大事な順番がひとつあります。工事は、申請して許可が出てからです。許可より先に工事の日程を組むことはできません。許可が出てから、施工の業者さんと日程を調整します(取り付けの工事そのものは、業者さんにお願いしていました)。
期間は、早ければ1週間ほど、遅いと1ヶ月ほどかかります。差が出るのは、行政の審査が早いか遅いかに左右されるためです。退院の予定に合わせたいなどの事情があるときは、その旨を伝えて、できるだけ急いでもらえるよう動くこともあります。
そして、これを知っておくと進め方が変わります——あとからの変更は、手戻りになります。書類を作ったあとの変更は、作り直し。提出したあとの変更は、一度取り下げてから出し直し。工事当日に「やっぱりここにも欲しい」「ここは要らない」となれば、追加も削除も申請のし直しです。
例外的に、同じ部材・同じ長さのまま、位置や向きだけを変える(金額が変わらない)場合は、行政に確認してよいと言われれば当日に対応できたこともあります。ただ、この扱いは市区町村によって認識が異なります。変更の可否も含めて、お住まいの市区町村やケアマネジャーにご確認ください。

だからこそ、確認①の段階で「付けたい場所を全部出し切って」おくことが、結局いちばんの近道になります。
費用の考え方
金額の話は、この記事ではあえて細かく書きません。家の状態と工事の内容で大きく変わるからです。ただ、費用が「どう決まるか」の考え方を知っておくと、見積もりを受け取ったときに中身が読めるようになります。
傾向は3つあります。まず、1本だけ頼むより、まとめて付けるほうが1本あたりの費用は下がる傾向があります。職人さんの出張や段取りが1回で済むためです。次に、壁に下地がない場所は、補強の工事が加わるぶん高くなります。そして屋外は、雨風に耐える素材を使うため高くなる傾向があります。玄関までのアプローチや外の階段など、屋外のご相談も少なくありませんでした。
また、同じ1本でも、壁の状態や手すりの長さで見積もりの内訳は変わります。分からない項目があったら、そのままにせず「これは何の費用ですか」と聞いてください。確認を重ねながら提案してくれる事業者であれば、一つひとつ根拠を説明してくれるものです。
下地がない壁でも、補強材を入れれば手すりは付けられます。補強材の見え方や通路幅への影響など詳しくは、手すり総論の「下地がなくても付けられる」の章にまとめています。
介護保険を利用すると、自己負担割合に応じて実際の負担額は変わります。現場の実感では、見積もりを見て「想像していたより負担が少ない」と感じる方もいらっしゃいました。
支給限度の20万円を超えそうなときも、「全部あきらめる」にはなりません。付けたい場所を全部お聞きしたうえで、優先順位を一緒に決めていきます。「今回はここまで、次の機会にここ」と分けて進めた方も多くいらっしゃいました。総論でお伝えした「全部聞いてから、一緒に優先順位を決める」は、費用の場面でも同じように働く考え方です。

工事当日も、一緒に確認する【確認③】
申請の許可が出て、いよいよ工事の日を迎えます。ここで終わり、ではありません。3つ目の確認が残っています。工事当日、取り付ける場所をもう一度、ご本人・ご家族と一緒に確かめてから取り付けます。
取り付ける場所は、工事当日も一緒に確認してから決めます。
「もう決めたのに、また確認するの?」と思われるかもしれません。それでも確認します。理由は2つあります。
ひとつは、住宅改修の手すりは家に直接打ちつけるものだからです。あとから「少し右がよかった」と思っても、簡単には動かせません。外せば壁に跡が残り、家を傷めてしまいます。打つ前のひと手間を惜しまないのは、そのためです。具体的には、取り付ける位置に印を付けて、いつもの動きをその場で再現してもらい、印の位置で支えられるかを、ご本人・ご家族・業者さんの全員で見てから取り付けます。
もうひとつは、私自身の失敗があるからです。屋外の手すりの工事で、支柱を立てる位置の最終確認が足りず、仕上がってみると、ご利用者が思っていた位置に支柱が付いていなかったことがあります。使えないわけではない。それでも、ご本人の頭の中にあった完成図とは違うものができてしまいました。あの悔しさは、今も覚えています。それ以降、付ける位置の確認には細心の注意を払うようになりました。この失敗を書くかどうかは迷いましたが、確認③の大切さは、この経験を抜きにしては語れません。
🟩 TOCHIの判断ポイント|工事当日の最終確認
まず確認:取り付ける位置に印を付け、本人・家族・業者の全員でその印を見る。
なぜ:住宅改修は家に直接取り付けるもので、あとから簡単には動かせないからです。
どうする:いつもの動きをその場で再現してもらい、印の位置でよいかを確かめてから取り付けます。
当日の確認にかかるのは、ほんの数分です。その数分をかけるかどうかで、仕上がりへの納得感は大きく変わります。確認を重ねて付けた手すりは、ご本人にとって「付けてもらった手すり」ではなく、「自分で決めた手すり」になります。
知っておいてほしいこと+まとめ
最後に、進め方の細部で知っておいてほしいことを順にまとめます。まず、相見積もりです。住宅改修では、複数の事業者から見積もりを取ることが制度のうえでも勧められています(2018年の通知改正で、ケアマネジャーが複数の事業者から見積もりを取るよう利用者に説明することとされました)。ただ、現場の実感では、実際に相見積もりを取る方はほとんどいらっしゃいませんでした。
相見積もりは、値段より提案を比べるために取ります。
比べてほしいのは金額ではなく、提案の中身です。福祉用具専門相談員によって、同じ家を見ても提案の仕方は違います。第2章で書いた「どう使いたいかを確認してくれるか」——それを提案に落とし込んでくれる事業者かどうかを、見積もりを並べて見てください。ケアマネジャーに「相見積もりを取りたい」と伝えれば、してもらえます。
賃貸にお住まいの場合は、工事の前に大家さん(所有者)の承諾書が必要です。承諾が得られない場合や、壁に穴を開けたくない場合は、工事不要の吸盤式手すりのような道具から始める道もあります。
入院中のご家族のために、退院予定に合わせて工事をすることもあります。ただし退院の予定は変わる場合もあるため、進め方や時期は、担当者と事前に確認しておくことが大切です。
なお、住宅改修で行えるのは手すりの取り付けだけではなく、段差の解消や扉の取り替えなどもあります。



住宅改修の手すりは、提案で確認し、申請でまとめ、工事当日にもう一度確かめる——確認を重ねることが、納得のいく仕上がりへの道です。進め方に迷ったら、まずは担当のケアマネジャーに相談してください。あなたの家の話を、いちばん近くで一緒に考えてくれる存在です。


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